
Compound

東芝株主の皆様へ
3D Investment Partners Pte. Ltd.(以下、「当社」)は、株式会社東芝(以下、「東芝」)の第181期定時株主総会において、Allen Chu氏および清水雄也氏を社外取締役として推薦する株主提案を行っています。2016年以来、株主にとっても、経営陣にとっても、非常に不幸な負の連鎖が生じています。負の連鎖とは、低い株主信任を発端とし、経営陣による一時的な信任を得るための資本規律を伴わない施策(ROIを度外視した資産売却と株主還元等)が繰り返され、価値も評価も高まらず、一年後にまた同様の事態が繰り返される、というものです。私たち株主は、これまでこのような不毛な連鎖が起こっていることを認識しつつも、放置してきました。従って、その責任の一端は私たち株主にもあると言えます。スチュワードシップ・コードに則り、今この瞬間に、私たち株主の手で、この不毛な連鎖を断ち切らねばなりません。
今回当社が推薦する2名の候補者は、これまで資産運用者として複利的な資本拡大を行ってきた実績があり、資本規律と資本配分のエキスパートです。両名共に経営の変革に強くコミットしており、必ずや強固な資本規律を整備し、複利的に価値を成長させる東芝(”Compound Toshiba”)を実現するものと確信しています。そして、”Compound Toshiba”の実現こそが、負の連鎖を断ち切る唯一の道であると、当社は固く信じています。
背景
東芝は過去数十年間、売上高や営業利益の成長という近視眼的なPL指標をKPIとして設定し、資本規律に欠く投資を通して株主資本を毀損してきました。東芝は、アジアを代表するインフラサービスカンパニーとなるに十分な資格を有しますが、そのためには、過去の失敗、つまり資本規律の緩みが価値の毀損を招いたという事実を真摯に受け止め、今後の経営方針に生かさなければなりません。すなわち、東芝の現経営陣は、PL指標たる営業利益を追うのではなく、資本規律を高めることを念頭に、資本効率(ROE)や投資効率(ROI)を何より優先して追求すべきなのです。当社は、主たる株主の一社として過去3年超に渡り様々な機会で当社の考えを現経営陣に共有してきました。これまで前向きで建設的な議論が出来ており、企業価値の長期的創造とTotal shareholder return(TSR)拡大という点では、目標を共有できています。
価値 vs 評価
東芝の現経営陣がTSRを追求していること自体は素晴らしいことです。しかし、当社から見て、現経営陣は価値と評価を混同しており、評価を直接高めることで、TSRを拡大させようとしています。確かに、TSRの拡大は評価が高まれば実現します。しかし、本質的に、価値が高まれば評価は高まりますが、一足飛びに評価を高めようとしても価値は高まらないのです。すなわち、直接評価を高めようとする経営は、価値を高めないばかりか、結果として評価さえも高めることができないという、皮肉な堂々巡りを引き起こすのです。
困ったことに、現在の東芝において、正にその堂々巡りが発生しています。現経営陣は、価値という視点がないままに、目先の評価を直接高めようと資本規律を伴わない表面的な株価対策ばかり行い、結局評価さえも高めることができていないのです。特に過去、東芝はまさに資本規律を伴わない経営判断によって価値を毀損してきました。従って、この堂々巡りは価値の毀損をも引き起こす危険性を秘めています。
当社が求めるのは、一部の株主の目先の要求に応じた受動的なコーポレート・アクションではなく、より本質的な、資本規律の伴う判断が自律的になされる経営体制の構築です。具体的には、まず経営の目的が価値の拡大であることを明確にすべきです。その上で、ROIを最重要KPIとして設定し、あらゆる経営資源の配分をROIを基準に判断すべきです。更に、そのKPIの追及を監督する、適切なコーポレート・ガバナンスを構築すべきです。それらを全て備えることが、強固な資本規律を整備する、ということです。
背後に資本規律が見えない盲目的な判断
例えば、2018年から約1年に亘って行われた約7,000億円にも及ぶ自己株式取得は、資本規律を伴う判断ではなく、一部の株主の支持を集めるための一時的な判断と見なされ、評価を得られませんでした。この自己株式取得の発表は、定時株主総会の僅か2週間前に行われました。実際の取得開始日はその5か月先です。自己株式取得のROIは取得株価で決まりますが、見通し得ない将来の株価での取得のコミットメントは、それがROIを度外視した、資本規律を伴わない判断であることを明確に示しました。結果、市場はこの自己株式取得を、定時株主総会における一時的な評価を得るための、受動的かつその場限りの経営判断であると見なしました。当社は、自己株式取得それ自体を否定しているのではありません。それどころか、結果的には低水準の株価での取得となり、一株当たりの価値を高めたものと好意的に評価しています。しかし、本質的に重要なのは、その判断に至った経緯です。背後に資本規律が見えない経営判断は、その結果に関わらず、市場では評価されません。
背後に変革の意思が見えない形式だけのガバナンス再編
当社は、昨年の定時株主総会においても、同様の問題意識にて取締役選任議案の株主提案を検討しました。しかし、会社が類似の取締役選任議案(投資経験者としてAyako Hirota Weissman氏 及びGeorge Raymond Zage III氏が選任)を含む、より大規模な取締役会再編案を提出したため、最終的に提案するに至りませんでした。当時、当社は、東芝が過去の失敗から学び、自律的に資本規律を備えようとしているのだと、強い期待を寄せました。しかし、この1年間のコーポレート・アクションや株価パフォーマンスを見ると、その期待は誤りであったと判断せざるを得ません。経営目標として掲げるTSRは、第180期有価証券報告書上で自らが定める比較対象企業の平均を下回っており、資本規律を映し出す鏡であるコングロマリット・ディスカウントは、むしろ拡大傾向にあると言えます。
何より当社が残念に思うのは、現経営陣が過去から学ばず、未だに資本規律を緩めうる営業利益を最重要KPIとして設定していることです。当社が切望するROI経営への転換がなされる兆しはありません。今振り返れば、昨年の取締役会再編案も一時的な評価を得るための施策であった可能性が高く、経営陣自身が変革する意思を持っていなかったのではないかと当社は考えています。車谷暢昭氏のインタビューを見ると、社外取締役が経営を監督するに十分な情報を提供していないように見え、その疑いは更に深まります。
“彼らは基本的に、私がしっかりやっていれば、執⾏に介⼊してこない。インサイダー情報を持っているわけではないので、CEOの私より正しく経営⽅針を決められることは絶対ない。それは欧⽶の社外取締役の⼈はよくわかっている。何か問題があったときには⾔ってくるが、それはすごく健全だ。(2019年12月28日 週間東洋経済)”
過去においても、変革の意思を伴わない形式だけのガバナンス体制となっていた
東芝は2000年に指名委員会、報酬委員会を設置し、2003年には委員会設置会社へ移行するなど、日本におけるコーポレート・ガバナンスのパイオニアという位置付けでした。しかし、2015年に発覚した過年度決算の修正を伴う会計不祥事、2016年の米国原子力事業における多額の減損損失の発生、2020年の連結孫会社における架空取引の発覚や、その他の過大な投資による価値の毀損を見れば明らかなように、過去のガバナンス体制は、形式的なもので、執行への助言・監督機能という本質は伴っていませんでした。翻って、現在の取締役会の構成は、社外取締役が10名を占めるなど、表面上は先進的なガバナンス体制であり、東芝もそのように説明しています。しかし、上述の通り、それがまた形式だけに留まっている可能性はないでしょうか?
車谷暢昭氏が代表執行役となって僅か2年、取締役会の再編から僅か1年、今ならまだ間に合います。過去から学び、今回こそは、「形式」だけではない「本質」を伴うコーポレート・ガバナンスを整備すべきです。
新社外取締役2名の選任
本株主総会において、当社はAllen Chu氏および清水雄也氏の2名の社外取締役を選任することを提案しています。その目的は、東芝にROI経営を導入して確固たる資本規律を整備し、現在生じている負の連鎖を断ち切ることにあります。2名の候補者はいずれも、資産運用者として複利的な資本拡大を行ってきた実績があり、資本規律と資本配分のエキスパートです。6月22日、当社の株主提案に対し、東芝は取締役会において全会一致で反対すると発表しました。株主の代弁者としての役割をも求められる社外取締役全員が反対の意思を示したことに、当社は強い違和感を覚えます。しかし、なればこそ、仮に信任されれば、それは正に経営に変革を求める株主の総意と言えます。両名共に経営の変革に強くコミットしており、必ずや、確固たる資本規律の下に価値を複利的に増大させる東芝、すなわち”Compound Toshiba”を実現するものと、当社は確信しています。

1992年
Donaldson, Lufkin & Jenrette Securities Corp. (ニューヨーク) 入社、Investment Banking Financial Analyst 就任
1994年
The Goldman Sachs Group, Inc., (香港)入社、Investment Banking Division Financial Analyst 就任
1995年
同社Principal Investment Area(シンガポール)、Associate 就任
1999年
同社Principal Investment Area(香港、ニューヨーク、シンガポール)、Executive Director 就任
阿里巴巴集団控股有限公司(アリババグループ)や中芯国際集成電路製造公司SMIC(Semiconductor Manufacturing International Corporation))を含む、計9社の社外取締役 就任※
2002年
Citadel Investment Group (Asia) Limited(東京) 入社、Portfolio Manager 担当
2005年
Tudor Capital(シンガポール) 入社、Portfolio Manager 就任
2007年
同社、Partner及びManaging Director 就任
2014年
Dymon Asia Capital(シンガポール) 入社、Managing Director 就任
2018年
Dymon Asia Capital(シンガポール) 退社
2019年
Noviscient Pte. Ltd. (シンガポール) 入社、Partner 就任(現任)
Investment Committee Chairman 就任(現任)
(重要な兼職の状況)
ハーバード大学同窓会(シンガポール) 委員会 委員
※現在、チュー氏はどの企業の社外取締役も務めておりません。
株主の皆様、
マルチストラテジー・クオンツ投資運用会社であるNoviscient社のパートナー兼投資委員会会長を務めるAllen Chuと申します。
東芝の独立社外取締役として推薦されたこと、感謝いたします。これまで未公開企業から公開企業まで幅広く投資してきた経験を活かし、東芝の変革を支えたいと思います。より具体的には、東芝の取締役会および経営陣とともに中長期的な価値を最大化するための戦略として、ROIC等のKPIに基づく資本配分の最適化、信頼と透明性を重んじる文化の導入、実質を伴うコーポレート・ガバナンスの構築などについて、取り組みたいと考えています。株主の皆様の代表者として、全ステークホルダーとの健全なバランスを維持しつつも、株主における最良のパフォーマンスを目指して全力で取り組んで参ります。

清水 雄也
(1971年11月8日生)
1994年
ゴールドマン・サックス証券株式会社 東京支店 入社
2000年
ムーア・ストラテジック・バリュー・パートナーズ 入社
2003年
エー・シー・キャピタル株式会社※ 入社
※あすかアセットマネジメントグループPrivate Equity投資業務関連会社
2004年
あすかアセットマネジメント株式会社 入社
2005年
株式会社ジャーミン・キャピタル 入社
2007年
ダルトン・インベストメンツ・グループ 入社
2010年
ダルトン・アドバイザリー株式会社※ 代表取締役就任
※ダルトン・インベストメンツ・グループ再編により新東京法人設立
2011年
サンテレホン株式会社 社外取締役就任
2015年
OTSキャピタル・マネジメント(香港) 創業
同、共同創業者シニア・ポートフォリオマネージャー就任
2016年
ひびき・パース・アドバイザーズ(シンガポール) 創業
同、代表取締役兼最高投資責任者(現任)
株主の皆様、
日本の中小型株の企業を主たる対象としてバリュー/エンゲージメント投資を行うひびきパース・アドバイザーズの創業者兼最高投資責任者を務める清水雄也と申します。
この度、日本の象徴たる企業の変革のために、独立社外取締役として推薦されたこと、感謝しております。個々の企業の変革を活性化し、日本の資本市場に活力を与えることは、私の投資家としてのライフワークです。是非、東芝の経営陣そして株主の皆様と共に、長期的な株主価値の「最大化」を目指していきたいと思います。より具体的には、ROIやROICのような資本効率性を示す指標を、あらゆる経営判断の絶対条件として導入したいと思います。合理的な意思決定プロセスと、それを支える資本規律の整備は何よりも重要です。その点において、私は妥協することなく社外取締役としての責務を全うしていきたいと存じます。